茜色の空に溶けた、小さな涙
秋の夕暮れは、いつも少し切ない色をしている。
あの日も、そんなことを考えながら、窓越しに西の空がオレンジに染まる様子を見ていると、玄関のドアが開く音がして、私は仕事場から「おかえり」と声をかけました。
けれども、いつもは元気に返ってくる「ただいま」がありません。
嫌な予感がして、廊下に出ると、ランドセルを背負ったまま、みみちゃんが立っていました。小さな頃から、何とかして泣くのを我慢しようとするときの、あの顔で。
それだけのことだったのに
「どうしたの?」
膝を折って目線を合わせると、ぽつり、と口が開きました。
漢字の宿題やテストで、ずっと間違いを丸にされていたこと。何度も続くから、思い切って担任の先生に伝えたこと。「漢字は一生モノだから、正しく覚えたいんです」と。
それだけのことだったのに。
抱きしめると嗚咽交じりに、話を続けます。
担任の先生と生活指導の先生に呼ばれたこと。
「生意気だ」と言われたこと。
そして、一際大きな泣き声とともに、こう告げられたと教えてくれました。
「そのままの態度では、公立中学では内申点はもらえませんよ」
この子の正しさを、守ろう
私は、しばらく動けませんでした。
この子は何も間違っていない。正しいことを、正しいと言っただけ。なのに、なぜ。怒りでも悲しみでもない、もっと静かで冷たい何かが、胸の奥に落ちていきました。
その夜、私は決めました。
この子の「正しさ」を、守れる場所へ連れて行こう。
6年生の秋。まだ「志望校」という目的地さえ見えない暗闇の中で、私たちは一歩を踏み出しました。
まさかその先に、あの「50日間の奇跡」が待っているとは、この時の私はまだ知る由もなかったのです。

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